サイト制作における分業制が内包している欠陥
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サイト制作会社にとって制作コストの削減は至上命題であり、彼らの理想は工場のような生産ラインを築くことです。
そんな背景があり、WEB業界では業務の細分化が進んだわけですが、この生産ラインにはしばしば致命的な欠陥が発生します。この記事では業務の細分化とその影響について解説します。
サイト制作の工程
サイト制作の工程は、大きく分けて「プランニング」「デザイン」「コーディング」の3つのセクションに分けられます。
この3つのセクションは、その業務の性質上、それぞれ必要なスキルの領域が異なるため、分業制で案件を回している制作会社ではセクションごとに担当者を置いて稼働させています。
では、各セクションの具体的な業務を解説していきます。
プランニング
プランニングは、文字通り目的を達成するための企画を考える、いわゆるコンセプトワークを行う工程です。多くの場合、WEBディレクターが担当します。
WEBディレクターの役割は、その名の通り監督であり、全ての工程の管理を行う、いわばサイト制作の責任者です。
その役割の性質上、”アルゴリズムの動向などSEOの知識と戦略性”・”WEBマーケティングに即したUIデザインの知識”・”マークアップなどコーディングの知識”など、全ての工程の知識を一定以上有している必要があります。
なぜかと言うと、これらの包括的な知識がないと工程管理もクオリティチェックもできないからです。その上でWEBディレクターに一番求められるスキルはコミュニケーション能力であり、精度が高いコンセプトワークができなくてはいけません。
デザイン
デザインはWEBデザイナーが担当します。
WEBデザイナーがどの段階からアサインされるかはその会社の風土や本人のスキルに依存するところがありますが、WEBディレクターが作ったワイヤーフレームに沿ってデザインを作成することが多いように思います。
コーディング
コーディングとは、デザイン工程で作ったデザインをブラウザ上で閲覧できる状態にするための作業です。主にHTML・CSS・javascript・phpなどの言語を用いて構築されることが多いです。
コーダー・マークアップエンジニア・フロントエンドエンジニアと呼ばれる方が作業を担当しますが、コーディングは本人のスキルによりカバーできる範囲が異なります。
例えばマークアップエンジニアが動的なコーディングができない場合には、フロントエンドエンジニアがjavascriptやphp方面のコーディングを担います。
大規模なWEBサービスを展開する際にはバックエンドエンジニアがサーバーサイドの構築を行います。
分業制の何が問題なのか?
分業制の一番の問題点は、各セクションに配置された人員が、自分のセクションのこと以外を考えなくなる傾向に陥りやすい点です。
各人員が全体を見渡して考えることができれば、目的達成のためにどんな要素が必要なのかを忘れることはまずありません。しかし、業務を分割することで必然的に考える範囲が狭まってしまい、それが本人の視野を限定してしまうのです。
例えば、WEBデザイナーの場合では以下のような例があります。
WEBデザイナーがコンセプトワークを自らが行う場合には、自分で定めた目的を達成するためにどんな要素が必要なのかを考えてデザインを行いますが、コンセプトワークに参加せずに与えられたワイヤーフレームにデザインをつけることが自分の仕事だと認識している場合には、これは既に本質の欠落と視野狭窄状態と言えます。
分業制は、それぞれのセクションに然るべきスキルがある人材を配置すれば、極めて効率的にハイクオリティなサイトの制作が可能になります。
しかし、制作会社はそもそも業務の効率化と、ひいては制作コストの削減がしたくて分業制にしているという背景があるため、スキルレベルを留意するよりも人件費を安くすることを優先しがちです。
その結果、十分なスキルが揃わず、欠けた知識の中で統率もかなわず、バラバラと制作が進んでいくことになるのです。
どの能力が欠けてもサイトに大きな欠陥が発生することになる
サイト制作において分業を行う場合、構造的に知識の溝と連携不備が発生しがちなので、それをコントロールするためにWEBディレクターの知識は包括的なものでないといけません。
時にはWEBデザイナーがWEBディレクターの知識をカバーする場面はありますが、それはよりテクニカルな場面であるべきです。
例えば、WEBディレクターに先述したプランニングの項目で上げたどれか1つでも知識が足りない場合には正確なコンセプトワークができない可能性が高いです。
WEBディレクターの足りない知識をWEBデザイナーが補完できれば良いですが、そもそもWEBデザイナーにも知識や気付きがない場合や、コミュニケーション不全などでそれができない場合はここから総崩れです。控えめに言って欠陥品まっしぐらです。
会社のポリシーや戦略的問題
制作会社の経営戦略は大きく分けて下記の2つです。
- 機能的な価値はもちろん、ワンランク上のデザインによるブランディングや目標達成の確度の高さを売りにして高価格帯のブランディングを築く戦略
- 価格的な間口を広くして、できるだけ何でも受ける戦略
1つ目はサービスの質を重視し、それをブランディングにしている会社の戦略です。
難度の高いミッションも綿密な調査とアイデアでユーザーの興味を引く力が彼らにはあります。
しかしこの戦略は人員のコストが高く、維持も難しいため、ほとんどの制作会社が2つ目に上げた「何でも受けますよ」的なスタンスで経営されているイメージです。
先にも述べた通り、制作会社の至上命題は制作コスト削減であり、「リソースが少しあふれる程度にできるだけたくさんの案件をさばきつつ、人件費はできるだけ安くしたい」というのが彼らの本音です。
上記のことからわかる通り、”できるだけ何でも受ける”彼らが重視するのはサービスの質ではなく、コストです。しかしこういった戦略を取る以上、会社としては正しい姿と言えます。
しかしこの戦略は、”サービスに特異性や付加価値を付与できないため、自転車操業になりやすい”という欠点があります。
また、欠員も頻繁に出るWEB制作業界では、そんな彼らが保持するスキルレベルは非常に不安定ですし、場合によってはどこまででも落ちます。
リソース的問題
彼らは足りないリソースをなるべく安く早く確保したいと考えます。
企業としては当然であり、またそうあるべきなのですが、しかし問題はここにあります。
元よりサービスの質を重視しない彼らは、往々にして専門職に対するリテラシーが非常に低いのです。特にWEBディレクターなど、複合的なスキルを有する人材に対してはそれが顕著です。
その証拠に、大手求人サイトでは、WEBディレクターに必要なスキルが「WEB業界の実務経験が○年以上ある方」などと募集されていたりします。
デザインスキルもコーディングスキルも必要ないけどWEB業界で働いていた人材。
つまりこれは「WEB業界で営業をしていた方」を意味します。
まるで精度が低いSEOの知識や適当なワイヤーフレームを作ってきた経験などは決してWEBディレクターの経験とは言わないのですが、これが彼らの基準なのです。
実質営業としてのスキルしか持たないWEBディレクターが監督するWEBサイトなんて、ほぼほぼ見てくれだけのガラクタになるというのが僕の見解です。
まとめ
分業は、スキルコントロールさえちゃんとできていればとても有用です。仕事効率が上がるだけではなく、シナジーも期待できるため、個人では成し得ないワンランク上のサイト制作さえ可能にします。
しかし先述のようにサービスに付加価値や特異性を付与できない制作会社の多くが自転車操業になりやすく、スキルコントロールができない現状がそこにはあります。
多くの制作会社が「人件費に十分な予算を組めない」という経済的な問題と、採用担当及び実務者たちに「専門的なスキルに対してリテラシーが低い」という知識的な問題を抱えており、結果、「必要なスキル保持者が揃わない」という事象が起こります。
「スキルコントロールができない状況での分業は、各知識が分断されたまま完成を迎えてしまうため、しばしば欠陥を抱えたサイトになってしまう」という業界の常識でした。
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